今回は、営業のプロセスにおいて、顧客の背中を押す ’’勇気づけ” のお話しです。
営業の現場で日々様々な質問を頂く中でも、圧倒的に多いのが、「クロージングがうまくいかない」というものですが、
そんな、クロージングにまつわる悩みの中でも、今回は特に、
「いいですね」と言われているのに契約できない、というケースについて、お伝えしていきます。
・口では「いいですね」と言ってくれているのに、契約してくれない
・商談で良い感じになって契約書を置いてくるのに、返送されてこないことが続く
・いつも「考えてまた連絡します」と言われてしまう
…などです。もしかするとあなたも、経験したことがあるのではないでしょうか。
お客様が契約することを決断してくれない。
「いいですね」「契約の方向で・・・」と言ってくれているが、具体的アクションを起こしてくれない。
この時、お客様の中では、何が起きているのでしょうか。
「すごいですね」と言われて、まとまらなかった商談
昔、私が独立したばかりの頃なのですが、こんな失敗をしてしまったことがありました。
ある地方の広告会社のお客様から、採用に関するコンサルティングのお問い合わせを頂き、お客様先に出向いた時のことです。
地元では順調に営業職の採用ができているのだが、東京・大阪など都市部の採用がうまくいっておらず、どのようにブランディングをしていけば良いだろうか、という旨のご相談でした。
その案件は、仲介役をしてくださった方がいたのですが、事前情報を聞くと、とにかく採用ノウハウがなくて困っているようなので、いろいろなノウハウを教えてあげて欲しい、ということでした。
結論から言うと、その商談は全くもってうまくいかず、まとまらなかったのですが、今思えばその事前情報を、仲介役の方への信頼もあり、安易に鵜呑みにしてしまったことが失敗の始まりでした。
「何も知らないお客様」という意識が先行してしまい、私はお客様の気持ちと共にいることができなかったのです。今振り返っても、営業のプロと名乗っているにも関わらず、お恥ずかしい限りの展開です。
恥を忍んで公表しますが、、このような会話でした。
社長:「やはり、会社説明会とか、やったほうが良いですよね・・?なかなかノウハウがなくて、どうしたものかと思っていまして」
私:「そうなのですね。会社説明会は、地方の会社でしたら絶対にやったほうが良いですよ。都市部に本社のある会社との戦いになりますので。流れとしては、まず●●を説明して、その後個別にアンケートを取って、その後は、、、、」
社長:「なるほど、、、ただ、うちの場合、あまり人手が割けないんですよね。人事部がたくさんいるわけでもないですし。それに、やったとしてもうまくいくのかどうか、考えてしまいます。」
私:「そうですよね。お察しします。しかし、やることによる効果は大きいですよ。難しいようでしたら、まずはやれる範囲でやっていけば良いと思います。徐々にブラッシュアップしていく形でも良いと思います。私がご支援することになりましたら、まずは〜〜の作業から入って、その後、■■に取り組み、◯◯のように進めて行きます。しっかりとサポートしますよ。」
社長:「なるほど、それは心強いです。さすが、東京の先生ですね。ところで、面接は何回くらいやるのが良いですかね?」
私:「そうですね。状況にもよりますが、早く内定が出せる方が、辞退率は低くなりますので、1回か2回が良いでしょうね。ただ、お話をお伺いする限りでは、御社にまず一番はじめに必要なのは、採用ブランドをどのように作っていくかという方向性を決めることであるように感じます。」
社長:「ほー、そうですか、なるほど・・・では、〜〜についてはどう思いますか?」
いかがでしょうか?あなたはどのように感じましたか?
典型的な、「すごいですね、良いですね」と言われているのに、決まらないというパターンの会話です。
「特別悪いというわけではないけれど、だからと言って良くもない」という、無機質な会話です。
お恥ずかしながら、この時の私は、この決まらないパターンの会話を、繰り広げてしまっていました。
その後、この社長からは、「前向きに検討します」と言われたまま、1ヶ月以上結論を頂くことができませんでした。
ノウハウ重視の会話は、「私は知っている人」「あなたは知らない人」という関係を作る。それは、間接的に相手を否定しているということ
この会話は、完全に、「教える人(アドバイスをする人)」「教えられる人(アドバイスをされる人)」という立場が確立していて、私としてはもちろん、お客様のためを思って情報提供をしたり、ソリューションを展開しているのですが、
相手の自主性を尊重するような会話になっていないので、話せば話すほど、間接的には「あなたは何も知らない人」「私に任せれば大丈夫」という暗黙のメッセージが、相手に伝わってしまっています。
お客様は私に「さすが東京の先生ですね」と言いましたが、まさにその言葉が、私が発していた暗黙のメッセージを物語っているわけです。
こういった関係は、言い換えれば、相手の無力感を浮き彫りにしてしまうということでもあります。
言い換えれば、「私はすごい」を強調している、というふうにも言えます。
相手が何を考えているかではなく、自分が何を話すかにばかり、意識が向いてしまっているのです。
人は、「できそう」「うまくいきそう」「私はできる」と思わなければ、なかなかすぐには行動に出ないものです。
そのために顧客は、商談の場で、相手の考えと自分の考えが合うのかを、確認したいのです。
こういった会話になると、合意形成が計られませんので、相手の積極的なアクションを起こすことができなくなってしまいます。
結果、結論がでなかったり、相手を依存させたりしてしまうということに繋がっていきます。
こういったパターンは、営業では、しばしば起こります。
コンサルタントや士業など、比較的専門的な知識を要する業態に見られたり、また、マーケットシェアが高いとか、圧倒的な情報量を握っている会社など、立場的に顧客よりも優位に立てるような会社の営業パーソンも、しばしばこういった商談になってしまうケースがあるように感じます。
さらに言ってしまうと、昔の営業スタイルでは、こういった、自分の会社(や自分)の素晴らしさを相手に存分に見せて、安心してもらう、というスタイルもあったように思います。
しかし、今のビジネス環境においては、こうった上下の関係を作るスタイルはうまく行かないことが増えています。
様々な研究によって、人がものやサービスを買う時は、100%感情に基づいて行動する、ということもわかっているとも言われていますが、SNSや、口コミの影響を無視できない今の環境においては、
いわば「上下の関係」とも言えるような関係を作ることによって、冒頭にお伝えしたような「口ではいいねと言ってくれているのに、契約にならない」という状況が、今まで以上に起きてしまう要因になるのです。
もちろん、業界や商材にもよるので、一概に一括りにすることはできません。
しかし、今の時代のビジネス環境では、顧客と営業パーソンは同じ目線に立ち、相手のこれまでの取り組みを認めたり、知らないながらもやってきたことを賞賛したりしながら、
「あなたならできますよ」「あなたならうまく行きますよ」「私も責任を持って力添えしますよ」と励ます、そんな、’’勇気づけ’’ がとても重要になってきているのです。
もうお気づきの方もいるかもしれませんが、こういった ’’対等な関係をつくること’’ や、’’勇気付けをすること’’の重要性は、営業の場面だけでなく、上司と部下の関係や、ビジネス以外の人間関係 ー 夫婦関係や友人関係、親子関係など ー でも、高まってきています。
この傾向は、ここ10年くらいで、特に加速されてきているように、個人的には感じています。
’’勇気づけ’’ とは、「うまくいきますよ」「力を貸しますよ」と、励ますということ。これによって顧客は自らアクションを起こしたくなり、「あなたから買いたい」と思う
では、先ほどの、私の会話を、”勇気づけ” を意識したものにすると、どのようなものに変化するでしょうか。
おそらくこのような展開になるでしょう。
社長:「やはり、会社説明会とか、やったほうが良いですよね・・?なかなかノウハウがなくて、どうしたものかと思っていまして」
私:「会社説明会について検討されているのですね。確かに採用に苦戦されると、いろいろなことを試してみたくなりますよね。会社説明会については、なぜご興味を持たれたのですか?」
社長:「いや、知り合いの会社が先日東京で開催して、人数は少なかったけれど、7人くらい集まって、一人採用できたと話していたものですから。気になっているのです。でも、うちのような会社でも、人が採れるのかなと、心配もありまして」
私:「そうなのですね。さすが、色々情報収集されているのですね。確かに、人が集まるかどうかや、実際に採用できるかはご心配ですよね。皆さん、ご心配されます。しかし、採用の場合は、欲しい人数を確実に採用できれば良いわけですから、超大手でもないかぎり、必ずしもたくさんの人数を集める必要はないですよ。
会社の魅力をしっかりと際立たせるようにコンセプトづくりができれば、話を聞いてみたい人を増やすことは、不可能ではありません。」
社長:「そうなのですか!知りませんでした。それならば、うちでもできるかもしれないな、、、」
私:「はい。もちろんまだ仮説ではありますが、お話を伺う限りでは、やってみる価値はあるのではないかと思います。ちなみに、通常の地元での説明会では、どのようなお話をされているのですか?」
社長:「ここにいる人事部長と、営業部長を中心に、弊社の◯◯の特徴を重点的に伝えるようにしています。〜〜な人には、▷▷な情報も、伝えています。一人一人に丁寧に対応していきたいなと思っていますので。」
私:「それはとても素晴らしいです。今お話をお伺いしただけでも、会社の魅力が十分に伝わってきますし、会社自体のブランディングも、立たせられる要素がいくつもあるように思います。
ブランディングは、社員の皆さんの感覚が最も大事ですので、こういった今までやってきたことを丁寧に見直しながら、行なっていければ上手く行くことが多いです。私がご支援させていただくことになりましたら、皆さんの経験値に私の知恵もお伝えして、より良い採用手法を一緒に作り上げていけるのではないかと感じます。うまく行くイメージが湧きますよ!」
・・・いかがでしょうか。
こういった会話が展開できれば、自ずと顧客は前向きなアクションを取りたくなるのが、イメージできたのではないでしょうか。(もちろん、口からでまかせで、安易に「できますよ」「大丈夫ですよ」と言ってはいけませんから、相手の状況に合わせて話す内容は変わってきます)
前述の失敗以降、私はそれまで以上に、この ”勇気づけ” を、強く意識するようになり、その結果、私自身も、お客様との共感域が、とても広がっていると感じています。もちろんその時々の状況にもよりますが、おおよそこういった展開で、どの企業様にも、喜んでいただいています。
対等な立場で背景や想いを分かち合い、’’勇気づけ’’をするポイントとは?
では、顧客と効果的に対等な関係を築き、” 勇気づけ ” を行なっていくには、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか。
テクニック論で論じてしまえば、「たくさん共感のフレーズを入れる」「相手の話を聞く」ということに尽きると思います。
相手のこれまでやってきたことや、これからやって行きたいことを丁寧に聴く。
そして、それに共感したり認めたりしながら、自分のソリューションを、適度にお伝えしていく。
このバランスを意識することでも、話全体の雰囲気はかなり変化していきます。
しかし、声を大にしてお伝えしたいのですが、これはテクニック論の話では論じ切れない、営業パーソン自身の「あり方」の話です。
上と下の関係を作って相手を説得する(そうなるといわゆるゴリ押し営業になる)のではなく、横に並んで同じゴールに向かおうとする「スタンス」が相手に伝わることこそが、” 勇気づけ ’’の本質です。
これは、販売や、形のあるものの営業でも同じです。
「この買い物は良い買い物ですよ」であったり、
「誰が見てもお似合いですよ」などの声がけをすること。
それが ’’ 勇気づけ ’’ ですが、単に「褒め言葉」をかければ良いということではなく、「相手を認める」スタンスで、相手の「買い物を失敗したくない」という気持ちとともにあることが必要です。
言葉をかけた時に、お客様が「この人は本心でそう言っているのだな、自分のことを思ってくれているのだな、自分の利益のために嘘を言っているのではないな」と、感じるかどうか。
それは、紛れもなく、その人のあり方でしか、表現できないことです。
あなたは、営業活動において、どのくらい、’’ 勇気付け ”ということを意識していますか?
私も肝に銘じていきたいと思っています。
今回のお話が、皆さまの営業活動の前進のきっかけになることを、願っております。
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